'10読書日記7冊目 『電子メディア論』大澤真幸

電子メディア論―身体のメディア的変容 (メディア叢書)

電子メディア論―身体のメディア的変容 (メディア叢書)

352p
総計1936p
およそ15年前の本とは思えないほどアクチュアリティを保っていると思う。というのも、われわれが当時と同様のメディア圏内に属しているからであると同時に、大澤真幸が確かに電子メディアと身体の関係性を的確に抉出しているからだろう。

近代の読書経験によって、あるいは規律権力の影響下で、主体が「内面の声」という形で形成される。読書するとき、あるいは独白するとき、そして黙考しているとき、人はその内面の「声」と自らの同一性を信じているのだ。文字はメディアとして用いられる最も原始的なものであるが、近代以前には人々は文字を読むことが出来ずにいた。しかし、国民国家内部でおこなわれた言文一致と識字教育などによって、人は文字を獲得し、同時に文字=社会=超越的規範を自己の内面に取り入れることに成功するのである。

しかし、電子メディアの登場は、この文字メディアによる主体の経験を、全く破壊するような極めて衝撃的な出来事だったのだ。電子メディアを介して現れる他者は、自己には現前し得ないはずの意味で他者的であったはずの他者とは異なり、「自己の領域に所属している他者、自己と同調している他者、自己がほとんど同化しているような他者」としてあらわれるのだ。「それは、一方では、自己自身と同じ直接性において存在していながら、他方では、自己にとって疎遠なものとして存在しているような、自己自身における他者性とでも表現するほかないものとなろう。」ここにおいて、文字メディアにおいて獲得された主体的な「声」は、その主体に対して破壊的であるような他者性を孕む〈声〉へと変換される。

基本の議論線はこうだが、それ以外にも、今日的な権力議論や、電子メディアの弁証法的な性格(まさっちーは本当に弁証法が好きだ)、カントの自律概念と電子メディアの空虚さの議論など、興味は尽きない。図書館で借りた本ではあるが、自分でも持っておきたい。